ステージ&コンサート情報
映画の國と言いつつなんなんだとお思いでしょうが、あまりにも映画、リリースDVDがらみの来日や情報が多いので、おさらいします。
映画『トスカ』関係
紀伊國屋より好評セールス中の『トスカ』は、アンジェラ・ゲオルギューとロベルト・アラーニャの夫婦コンビにロージーの映画『ドン・ジョヴァンニ』やロージの『カルメン』、そしてアラン・レネの奇怪なファンタジー『人生はロマン』La vie est en roman など、映画でも活躍するバリトンのルッジェーロ・ライモンディという、オペラ界のトップ・スターを招いてた話題作。
ちなみにその後、指揮者アントニオ・パッパーノは、この作品がきっかけで自身が音楽監督を務めるコヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラで上演するマスネの《ウェルテル》をこの映画の監督ブノワ・ジャコに依頼して、オペラ演出家としてデビューさせたした。
まず、2006年5月カンヌ映画祭オープニング・セレモニーにサプライズ・ゲストとして登場して、ベッリーニの歌劇《ノルマ》よりカヴァティーナ「清らかな女神よ」Casta diva を彼女の録音を映画で使った審査委員長ウォン・カーワイの『2046』の映像に合わせて、生の歌声を披露したゲオルギューだが、遂にこの6月13日よりロイヤル・オペラに、トスカ役に初挑戦する。指揮はパッパーノだか、演出はジャコではなく、日本でも野村萬斎主演による《ハムレット》を手掛けた気鋭ジョナサン・ケントが担当。この演目はマリア・カラスがフランコ・ゼッフィレッリ演出で手掛けたプロダクションが伝説化していたので、ニュー・プロダクションにするのは勇気のいることであった。しかし、そんな不安とは関係なく、ゲオルギュー出演の組は共演がマルセロ・アルバレス、ブリン・ターフェルという豪華版で、7月1日までの5公演のチケットはあっという間に完売で、公演も大成功となった。
一方、夫のアラーニャはボローニャ歌劇場の日本公演のため来日で、記念すべき妻の《トスカ》デビューには共演はおろか、プレミエの観覧もできない。演目は映画ファンにはルキーノ・ヴィスコンティの『夏の嵐』の冒頭を始め、ベルトルッチの『ルナ』、サリー・ポッターの『耳に残るは君の歌声』などで大胆にフィーチャーされたことでもお馴染みのヴェルディの代表作《イル・トロヴァトーレ》。彼が演じる吟遊詩人マンリーコ役は強靭な声と高音を要する超難役であることは『夏の嵐』を御覧の方ならお解りでしょうが、アラーニャが初めてパリ・オペラ座で歌った時は満足な出来とは言えるものではなくブーイングになり、今年二月にはトリノでジャン・レノのオペラ演出家デビューで注目されたプッチーニの《マノン・レスコー》を風邪の悪化で降板するなど心配されましたが、復帰し、今回の絶好調のようです。公演は、上野の東京文化会館で6月4日、7日、11日、14日と4回。
ちなみに通販サイトForest Plusでは「オペラ界の貴公子 ロベルト・アラーニャ キャンペーン」と題して彼の収録作品などの割引キャンペーンを実施(その中にはドニゼッティの《ルチア》の仏語版《ランメルモールのリュシー》の収録版もありますが、それはジャン・ルノワールの『ボヴァリー夫人』の中でもオペラ鑑賞シーンで登場した作品と同じ作品です)。
それぞれ違うレパートリーに挑んでて、このあと7月27日にモンペリエ音楽祭でエドワール・ラロの《フィエスク Fiesque》蘇演の演奏会で共演する予定でしたが、ゲオルギューは声に合わなかったようで降板してしまいました。残念。
悪役スカルピ役のライモンディは、9月にフィレンツェ歌劇場の日本公演で来日します。演目は、これまた映画ファンにもお馴染みのシェイクスピア劇のキャラクター、フォルスタッフをヴェルディがオペラ化した《ファルスタッフ》で、全4公演中彼の出演日は9月11、13、18日。フィレンツェ五月祭でこの5月にルカ・ロンコーニによって新演出された公演ですが、肉襦袢を来て演じるこの役は大変な労力を必要とするものですが、これを終わるや6月にはウィーンでパトリス・シェロー演出によるモーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》再演に向うなど、過密スケジュール。その為か、7月のパリ・オペラ座の新演出であるロラン・ペリー演出によるドニゼッティ《愛の妙薬》のドゥルカマーラ役は降板しているので、無事来日公演してもらうことを祈りたい。
そして政治犯アンジェロッティ役だったマウリツィオ・ムラーロは、12月に2度目の新国立劇場でロッシーニ《セビリャの理髪師》でバルトロを演じるので、そちらも注目のほど。
トゥーランドット
プッチーニのオペラ《トゥーランドット》は、トリノ・オリンピックの女子フィギア・スケートで優勝した荒川静香選手が使用して(といっても音源はヴァイオリニスト、ヴァネッサ・メイの演奏による歌のない編曲もの「トゥーランドット・ファンタジー」)、一躍脚光を集めた作品ですが、先ほど触れたフィレンツェ歌劇場の日本公演のもう一つの演目として再び上演されます。演出は紀伊國屋からも『赤いコーリャン』『古井戸』のDVD-BOXがリリースされているチャン・イーモウ。彼の方向を変えたとも言える仕事だったようで、それは紫禁城での特別公演を収録したDVD《トゥーランドット》とそのドキュメンタリー映画「トゥーランドット〜チャン・イーモウの世界〜 The Turandot Project」でも伺える。ちなみにその収録で、主役のカラフを演じていたのが、ヴェルナー・シュレーターの映画『愛の破片』で《アンドレア・シェニエ》のアリアなどを披露してくれたセルゲイ・ラリンであるが、彼はこの2月NHK交響楽団の演奏会でスクリャービンの交響曲第二番のソリストとして来日してくれた。
メトロポリタン歌劇場
通称メト(MET)は、『ハンナとその姉妹』『マンハッタン殺人ミステリー』『月の輝く夜に』などの映画に、デートの場として登場して映画ファンにもお馴染みでしょうが、ボローニャが終わったかと思ったら今度はMETということで、オペラ・ファンには財政難。今回の演目は《椿姫》《ドン・ジョヴァンニ》《ワルキューレ》の三つ。
オペラ映画『オテロ』のプラシド・ドミンゴは《ワルキューレ》に主演し、その監督フランコ・ゼッフィレッリは《椿姫》を演出。この《椿姫》はゲオルギューが以前初演にキャスティングされたが、ひともんちゃくあって降りたもので、それに替わって出演したルネ・フレミングが今回日本でも演じる。ちなみにアルフレード役のラモン・ヴァルガスは映画『抱擁』でガブリエル・ヤレド作曲による主題歌を歌ってた人です。
《ドン・ジョヴァンニ》は演出を『ビリー・ワイルダーの悲愁』にも主演した女優マルト・ケラーが担当して評判となったもの。彼女は90年代は音楽劇の語り役で上演や演奏会に次々出演していたが、99年にストラスブールでプーランクの《カルメル派修道女の対話》で遂にオペラ演出家としてデビューして絶賛され、音楽批評家選出の年間最優秀公演にも選出され、更にこの収録のDVD化で世界的に注目を集めた。これによってメトがそれまでの古びた公演を捨てて彼女に新演出を依頼したのである。しかし、この公演の注目は本国でも顔を合わせていない出演陣の方に目が向いているよう。ちなみにツェルリーナ役のマグダレナ・コジェナーはマルク・ミンコフスキによって見出された美貌のメゾであるが、彼女の姿は、そのミンコフスキが指揮し、ウィリアム・クラインが監督した風変わりな映像作品「Messiah」でも見ることが出来る。ドンナ・エルヴィーラ役のメラニー・ディーナーはエクスでのピーター・ブルック演出版で同役を演じて頭角を現わしたものの日本公演には不参加だったので、成長の程が気になるところ。なお、レポレッロ役と《ワルキューレ》のフンディング役を演じるルネ・パペはケネス・ブラナー監督による来年公開のオペラ映画「魔笛」でザラストロをやってます。
マイケル・ナイマン
マイケル・ナイマンは毎年のように来日しては違うプログラムを聴かせてくれているようですが、マイケル・ナイマン・バンドとして6月9日、11日に紀伊國屋のためのようなプログラムを披露。
1日目は「ピーター・グリーナウェイ コレクション DVD-BOX 1」に収められた『英国式庭園殺人事件』、『ZOO』、『メイキング・ア・スプラッシュ』に、『ピアノ・レッスン』。2日目は「ピーター・グリーナウェイ コレクション DVD-BOX 2」にも収められた『数に溺れて』も演奏。両日とも、最後には映画化もされたことのあるガルシア・マルケス原作「エレンディラ」の舞台化を蜷川幸雄演出、中川晃教主演で世界初演すのも注目である。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
フィリップ・ヘレヴェッヘと言えば、オムニバス映画『アリア』(87)でジャン=リュック・ゴダールの挿話で取り上げたリュリ作曲『アルミード』でヘレヴェッヘ指揮の録音を使っていましたが、この録音は未だにCDになっていないもので、その後91年の再録音はいまでもロングセラーとなっています。彼は昨年はベートーヴェンの交響曲全集の連続公演をしてくれましたが、今年はアジア・ツアーの一環で6月8日に1日だけ池袋の東京芸術劇場でバッハの《ミサ曲 ロ短調 BWV 232》を演奏しました。
管弦楽と合唱はベルギー、ヘントのコレギウム・ヴォカーレ。ソリストの中で中も浮くなのは、アルトウジェーヌ・グリーンの長篇第2作「Le Monde vivant」の中で効果的に使われたクリスティーナ・プルハー率いるアルペッジャータ演奏によるフォーレの《レクイエム》を歌ったカウンターテナーのダミアン・ギヨンである。当初発表されていたダニエル・テイラーからの交替だが、彼はグリーンとも親しいヴァンサン・デュメストルのアンサンブル「ル・ポエム・アルモニーク」とのも度々共演し、来年はニース歌劇場でヘンデルのオペラ《テゼオ》にも出演するなど、期待を集めている。
その「フォル・ジュルネ」は終わってしまいましたが、実はフィリップ・ピエルロ率いるリチェルカール・コンソートの演奏会のソリストとして映画『王は踊る』の劇中の歌唱を吹替えていたセリーヌ・シェーンが来ていたのですが、彼女はウマ・サーマンをもっと愛らくしたキュートな女性で、彼女が吹替えじゃなく演じればよかったのにと思ったほど。その映画でリュリの音楽を指揮していたラインハルト・ゲーベル率いるムジカ・アンティクヮ・ケルンが10月6日トッパンホールでバッハの「フーガの技法」などを演奏します。
ストローブ&ユイレの傑作『アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記』に主演したグスタフ・レオンハルトは一昨年は素晴らしい演奏を日本でも聴かせてくれましたが、今年10月に予定されていた公園は体調不良により残念ながらキャンセルとなりました。
その映画に自身の楽団ウィーン・コンツェントゥス・ムシクスと出演していたニコラウス・アーノンクールは昨年の京都賞を受賞したのを期に来日公演が決まり、11月16日NHKホールでモーツァルトの「レクイエム」を演奏しますが、あっという間に完売。7月にもう一つの演目、ヘンデルの「メサイア」が発売になましたが、即時完売でした。
11月16日は三鷹の武蔵野文化会館でソニア・ヴィーダー=アサートンがバッハなどの演目によるコンサートをしますが、これまた既に完売。彼女はパートナーのシャンタル・アケルマンの『カウチ・イン・ニューヨーク』などの映画音楽や演奏会でのコラボレーションも展開していますが、他にも『女と男の危機』『エステ・サロン ヴィーナス・ビューティ』などてチェロ演奏を聴かせてくれた人物。
同じ日に、エリック・ロメールの『春のソナタ』でテーマ曲となたベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」でピアノ伴奏していたアレクサンドル・タローの演奏会が予定されていましたが、残念ながら中止となりました。彼はダリウス・ミヨーの未亡人マドレーヌを語りに招いて録音した「ミヨー:ピアノ作品集」で映画音楽『ボヴァリー夫人』のスコアをピアノ編曲版を初録音して絶賛され、その後もバッハ「イタリア組曲」、ラヴェル、ラモー、ショパンなどのアルバムをリリースし、その度に賞賛を浴びており、演奏会も満席の大賑わいという人気者である。しかし、日本へはコンクールの受賞記念公演で来て以来、来れない状態なのが残念である。ちなみに『春のソナタ』は先に依頼されていたヴァイオリニストのテディ・パパヴラミが誘ってくれて演奏したとのことです。