第15回 ジャン・ルーシュ、ミシェル・ブロー、ミシェル・ファノ
ジャン=リュック・ゴダール監督の『恋人のいる時間』(1964)の原題は『ある既婚女性』という意味だが、もともと考えられていた題名は、定冠詞付きの『既婚女性』だった。だが、この作品が既婚女性の不倫という題材を扱っているため、その題名は既婚女性一般への冒涜だというので、フランス政府当局の圧力により改題を余儀なくされた。さらに、ゴダールは情報大臣アラン・ペルフィットとの会談ののち、この作品を公開するための条件として数箇所の削除に同意した。ところで、この映画はある意味で、1964年のパリを舞台にした人類学(民俗誌)的映画と考えられる。
『恋人のいる時間』の正規盤DVDはコロムビアミュージックエンタテインメントから出ていたが廃盤。
ほぼ同時期にパリで撮られたジャン・ルーシュ監督のこれまた人類学的な短編『十五歳の未亡人たち』(未。別題『マリ=フランスとヴェロニク』)もフランス国内で検閲を加えられた。この短編はカナダ国立フィルム・ボードの企画した国際オムニバス『思春期 La Fleur de l’age』(未)の一編として撮られた。『十五歳の未亡人たち』は、パリの中流階級の若者たちのあいだで流行の最先端を行くクラブ「ゴルフ・ドルオ」やロックとドラッグとフリー・セックスを取り上げる。『恋人のいる時間』のプールサイドのカフェの場面に出ていた女子高生役のヴェロニク・デュヴァルが出演。のちにアングラ映画作家フィリップ・ガレルの初期の映画にズーズーとともに出ることになるディディエ・レオンも出演している。
1966−67年のパリのクラブ「ドラッグストア」を描いた映画に、フランソワ・アルマネ原作・脚本・監督の『好きと言えるまでの恋愛猶予』(2002)がある。原題『ドラッグストア組』。主演はジャック・ペランの息子マチュー・シモネ(1976年生まれ)とジャン=ピエール・カッセルの娘セシル・カッセル。国内盤DVDはアートポートから発売。
ちなみにセシル・カッセルの新作はエリック・ロメール監督の仏=西=伊合作映画『アストレとセラドンの恋』(製作中。2007)。原作は17世紀のオノレ・デュルフェのバロック小説。セラドン役はアンヌ・フォンテーヌ監督の「おとぼけオーギュスタン」シリーズ第3作で最終編の『新たなチャンス』(仮題。2006)にも出ている美青年アンディ・ジレ。アストレ役は新人ステファニー・ド・クレイヤンクール。
ルーシュの『十五歳の未亡人たち』の直前にパリで撮られたその姉妹編的な短編『北駅』は、オムニバス『パリところどころ』(1965)の一編である。『十五歳の未亡人たち』にも出ているナディーヌ・バロとジル・ケアンが出演。ナディーヌ扮するオディールの夫に扮するのは製作者のバーベット・シュローダー(バルベ・シュレデール)。16ミリで撮影し、35ミリにブローアップして公開するという方法で製作された『パリところどころ』はヌーヴェル・ヴァーグのひとつの終わりを告げる作品ともみなしうる。ヌーヴェル・ヴァーグにとって代わる流行の最先端は、ロックおよびドラッグ文化あるいは「前衛アート」や「キワモノ映画」だった。『パリところどころ』のDVDは、現在、日本の紀伊國屋書店から出ているだけである。ジャック・ロジエ監督の『アデュー・フィリピーヌ』(DVD題。1961−63)と共に『ヌーヴェルヴァーグ・セレクション』(2枚組)として発売されていたが、10月21日、単体発売される
筆者による記事も参照。
ルーシュの交通事故による急逝(2004年2月18日)から一年経った2005年3月24日にフランス、アルカド/アクト・シュドからDVD−BOX『ジャン・ルーシュ』(4枚組)が発売された。収録作はすべて日本未公開。
以下の邦題は特殊上映題に基づく。ディスク1には「映画=トランス」というくくりで『メートル・フ』(1956。28分)、『マミー・ウォーター』(1956。18分)、『トゥルーとビッティ』(1972。9分)、「映画=物語」というくくりで『弓矢によるライオン狩り』(1967。77分)、『"アメリカ人"という名のライオン』(1972、20分)を収録。 ディスク2には、「映画=快楽」というくくりで、『ジャガー』(1955。88分)、『僕は黒人』(1959。70分)を収録。ディスク3には「映画=遭遇」というくくりで、『少しずつ』(1971。92分)、『人間ピラミッド』(1961。88分)を収録。ディスク4(特典盤)には、「映画=ルーシュ」というくくりで、『ジャン・ルーシュがピエール=アンドレ・ブタンに語る』(1992。104分)、『ジャン・ルーシュの発言、対話、ベルナール・スュリュグ/パトリック・ルブット』(28分)、『十五歳の未亡人たち』(1966。24分)、ルーシュが事故死する前日にリュック・リオロンとベルナール・シュリュグが撮った生前のルーシュを収めた最後の映像『昨日の分身が明日と会った Le double d'hier a rencontre demain…』(2004。10分)を収録。ディスク4収録作はいずれも日本で上映されたことがない。
ピエール=アンドレ・ブタンは記録映画作家で、アレクサンドル・アストリュックとミシェル・コンタ監督の『サルトル 自身を語る』(1976)、オタール・イオセリアーニ監督の『トスカーナの小さな僧院』(特殊上映題。1988)、『蝶採り』(1992)の製作者。ドミニク・ラブールダンと共同監督の『セルジュ・ダネー:映画息子の旅程』(1992)の完全版(2004。188分)、単独監督作『ジル・ドゥルーズのアベセデール』(1996。453分)、アニー・シュヴァレーと共同監督の『トニ・ネグリ:赤い旅団からアタック(ATTAC)へ』(2004。156分)はエディシオン・モンパルナスからDVDが出ている。
ベルナール・スュリュグはパリの開発研究機構(IRD)研究チーフでもある映画作家。ルーシュとの共同監督作に『死より強い夢』(未。2002)がある。パトリック・ルブットは1995年に創刊された映画批評誌『映像、世界 L'image, le monde』の元編集長。
このBOXに先立ち、ポルトガルのコスタ・デ・カステロ・フィルメシュから『ジャン・ルーシュ記録映画集』(レヴュー)と題し、『メートル・フ』と『僕は黒人』収録のDVDが出ている。
コスタ・デ・カストロ・フィルメシュからは、「距離のモンタージュ」を唱え、ゴダールの『映画史』(1989−98)にも多大な影響を与えた、異色映画作家ペレシャン(1938年、アルメニア、レニナカン生まれ)の作品を集めた『アルタヴァスト・ペレシャン記録映画集』DVDも出ている。収録作は『始まり』(1967。10分)、『我ら』(1969。30分)、『住人』(1970。10分)、『四季』(1972。30分)、『我々の世紀』(1982。50分。1990年製作の短縮版は30分)、『終わり』(1992。8分)、『生命』(1993。6分30秒)。邦題はすべて映画祭上映題。
4月22日から7月2日まで東京都現代美術館(MOT)で催されたカルティエ現代美術財団コレクション展では、ペレシャンの『我々の世紀』が上映された。
『人間ピラミッド』は、ゴダールが『カイエ・デュ・シネマ』1961年度ベスト10の第2位に選んだことで(第1位はジョン・フォード監督の『馬上の二人』)、その題名のみ長らく知られてきたが、ジャック・ロジエ監督の『アデュー・フィリピーヌ』と共に2004年8月21日、「ダンスin シネマ」で初めて日本語字幕付きで上映され(ただし不完全なプリントだった)、8月26日に紀伊國屋書店からDVDが発売される。なお『アデュー・フィリピーヌ』の単体DVDは9月30日発売。
ルーシュと民族誌映画の歴史についてはこちらの日本語記事も参照。エンリコ・フルキニョーニが1980年8月に行ったジャン・ルーシュ・インタヴューも。
ルーシュの初期の映画『黒い魔術師たちの国で』(特殊上映題。1947。27分)のDVDもドキュメンタリー・エデュケイショナル・リソーシズ(DER)から発売された。ニジェールのソンガイ族の憑依ダンスの記録映画。記録映画作家ドミニク・デュボスクが1991年にルーシュに新たな音声解説を付けさせた版。
ドミニク・デュボスク監督の記録映画『パレスチナ パレスチナ』(特殊上映題。2001。75分。日本での上映情報)のDVDはメディアテック・デ・3・モンドから出ている。仏語、英語、西語、独語字幕付き。63頁の冊子付き。ジャスティーン・シャピロ、B・Z・ゴールドバーグ、カルロス・ボラド監督の『プロミス』(2001)、ニューヨーク在住のダーナ・アブラハメ監督のパレスチナ=米国合作映画『いつまで、いつか』(映画祭題。2004)の舞台になったドヘイシェ(デヘイシャ)難民キャンプを記録する。
DERからは、ルーシュを追ったステーフ・メイクネヒトSteef Meyknecht、ディルク・ネイラント Dirk Nijland、ヨースト・フェルハイJoost Verhey監督の記録映画『ルーシュ組』(1998。70分)のDVDも発売されている。1991年にルーシュが長編『マダム・ロー』(未)をオランダで撮った際、そのスタッフのニジェール人、ダムレ・ジカ、ラム・イブラヒム・ディア、タルー・ムズラヌらと製作背景を記録したもの。
ジャン・ルーシュ監督『トゥルーとビッティ』(関連記事)の動画はこちらで観られる。ニジェール、ゼルマガンダのシミリ村で、次の刈り入れ時にイナゴの大群を退散させる精霊を呼び出すための憑依ダンスの記録映画。「トゥルー」と「ビッティ」は原始的な太鼓の名称。トランス状態に導く呪術的リズムが圧巻。助監督はラム・イブラヒム・ディアとタルー・ムズラヌ。
1958年、ポーランド出身でスイスで電子工学を学んだ技術者シュテファン・クーデルスキ(1929年生まれ)が開発したスイスのナグラ社(1951年設立。「ナグラ」はポーランド語で「録音機」の意)のテープ・レコーダー、ナグラ㈽は、キャメラと同期する上、機動性があり、重量も従来の10分の1の20パウンドだった。1961年にフランスのアンドレ・クタンが開発したエクレール社の16ミリ・ノイズレス・ポータブル・リフレックス(NPR)などの軽量機材はドキュメンタリーの手法を大きく変えた。その先駆者がカナダ・ケベック州のジル・グルー(1931年、モントリオール生まれ。1994年没)やミシェル・ブロー(1928年、ケベック州生まれ)だった。
ブローは1960年8月から、ルーシュが社会学者のエドガール・モランと共同監督した『ある夏の記録』(特殊上映題。1961)の撮影にも起用された。同作には最新の軽量同録機材と超高感度フィルムが用いられ、『勝手にしやがれ』(1959)のラウル・クタール、『人間ピラミッド』、『罰』(未。1962)の一部を撮影したロジェ・モリリエールも撮影に参加している。ルーシュは初めてピン・マイクを使い、出演者は各自録音機を持っていた。撮影は『人間ピラミッド』の最初の撮影終了直後の1960年5月末からパリで始められた。最初の撮影技師はモリリエール。その後、クタールとブローが雇われた。『人間ピラミッド』に出演しているコート・ジヴォワール、アビジャンの高校生ナディーヌ・バロ、ランドリーも出演している。『ある夏の記録』のDVDもフランスのアルテから出ている。『ある夏の記録』の英訳台本はスティーヴン・フェルド編『映画人類学:ジャン・ルーシュ』(ミネソタ大学出版、2003)に載っている。
モリリエールは、マリオ・ルスポーリ監督の『大地の見知らぬ人たち』(特殊上映題。1961)、『狂気へのまなざし』(未。1962)でもミシェル・ブローらと共に撮影に参加した。マリオ・ルスポーリについては短編映画専門誌『ブレフ』68号(2005年9−10月号)を参照。
『思春期』(関連記事)には、ルーシュのほか、カナダ・ケベック州のミシェル・ブロー、後に『アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記』(1968)や『豚小屋』(1969)を製作する、イタリアのジャン・ヴィットリオ・バルディ、日本の勅使河原宏が参加しているが日本未公開。ブロー篇はジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド主演の『ジュヌヴィエーヴ』、バルディ編はミカエラ・エスドラ主演の『フィアメッタ』。『フィアメッタ』はトスカーナ地方の田舎の屋敷育ちの14歳の少女フィアメッタが夢想の中で、父親が死に母親がまだ皆に愛される美少女である世界を生きるという話。
勅使河原編の『白い朝』(別題『アコ』)は勅使河原の没後1周年にあたる2002年4月14日にアスミックから発売されたDVD『勅使河原宏の世界DVDコレクション』(6枚組)に収録されている。パン工場で働く16歳の美少女アコを演じるのは、のちに小澤征爾夫人となるモデル出身の入江美樹。音楽は『おとし穴』(1962)、『砂の女』(1964)の武満徹。アコとその同僚たちのパン工場での作業や休日の様子を断片的な映像と、若者たちの会話断片のサンプリングを含むミュージック・コンクレートとピアノによる軽快なジャズが組み合わされた実験的作品である。1963年7月15日から9月30日にかけて撮影され、1964年2月15日に公開された勅使河原プロの長編『砂の女』は、5月のカンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞(グランプリは『シェルブールの雨傘』)。安部公房の原作小説(1962年6月発行)とともに世界中で注目を集めた。日本初公開版は147分。DVD『砂の女 特別版』(アスミック)にはこの版とインターナショナル版(122分)がともに収録されている。
ミシェル・ブロー監督の『ジュヌヴィエーヴ』に関しては2005年にカナダ国立フィルム・ボード=ナヌーク・フォルムズから出た『ミシェル・ブロー作品集 1958−1974』(5枚組)というDVD−BOXに収録されている。収録作は13本。 いずれも日本未公開。
『ミシェル・ブロー作品集』DVD−BOX 収録作品
- ケベック州シェルブルックの恒例行事、かんじき競歩大会を記録した、記録映画史上の画期的作品と言われる『かんじき競歩者たち Les raquetteurs』(1958。16ミリ。15分。共同監督ジル・グルー)
- 『闘争 La lutte』(1961。16ミリ。28分。共同監督マルセル・カリエール、クロード・フルニエ、クロード・ジュラ)
- 『ケベック=USAあるいは穏かな侵略Quebec-USA ou l'invasion pacifique』 (1962。16ミリ。28分。共同監督クロード・ジュラ)
- 『世界の存続のために Pour la suite du monde』(1963。16ミリ。105分。共同監督マルセル・カリエール、ピエール・ペロー)
- 『物言わぬ子供たち Les enfants du silence』(1962。16ミリ。24分)
- 『失われた時 Le temps perdu』(1964。16ミリ。27分。共同監督クロード・ジュラ)
- 『ジュヌヴィエーヴ Genevieve』(1965。28分) 二人の少女がケベック・シティの冬祭に初めて行き、青年と出会うが幻滅するという話。
- ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド出演のブロー初の長編劇映画『海と淡水のあいだ Entre la mer et l'eau douce』(1965。85分)
- 『何のとりえもない子供たち Les enfants du neant』(1968。44分。共同監督アニー・トレゴー)
- 『シャック賛 Eloge du chiac』(1969。16ミリ。27分。「シャック」とはニューブランズウィック州南東部のアカディア方言のこと)
- 『アカディ アカディ?!? L'Acadie l'Acadie?!?』 118 min (1971。16ミリ。共同監督ピエール・ペロー)
- 『てこの腕と川 Le bras de levier et la riviere』(1973。16ミリ。26分)
- ケベック解放戦線のテロリストに対抗する反テロ戦争という名目でカナダ議会の可決した戦争法案により活動家400人以上が検挙されるという物語のカンヌ映画祭監督賞受賞の劇映画『命令 Les ordres』 (特殊上映題。1974。107分)
特典映像は、ジル・ノエル監督の『美学上のトロイの木馬 Le cheval de Troiede l'esthetique』(2005。105分)とドニ・デジャルダン監督の『文字に先立つダイレクト Le direct avant la lettre』(2005。50分)
ちなみにカナダで『モントリオールところどころ Montreal vu par...』(1991)なる6話オムニバス映画が作られている。監督は『アメリカ帝国の滅亡』(1986)、『モントリオールのジーザス』(1989)のドゥニ・アルカン、ミシェル・ブロー、『アララトの聖母』(2002)のアトム・エゴヤン、『熱情の年』(未。1998)のジャック・ルデュック、『天国の青い蝶』(2004)のレア・プール、『私は人魚の歌を聞いた』(1987)、『月の瞳』(1995)のパトリシア・ロゼマ。
ミシェル・ブロー監督、ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド主演の『ペーパーウェディング』(1990。レヴュー washingtonpost.com / timeout.com)は、2005年3月20日、大阪フランコフォーヌ映画祭で上映された。撮影は原田眞人監督『栄光と狂気』(1996)のシルヴァン・ブロー。シルヴァンはミシェルの息子である。ちなみにミシェル・ブローが1965年に設立した製作会社ナヌーク・フィルムズで1980年以後、製作者を務めるアヌーク・ブローもミシェルの娘。英語字幕付きのDVDは米国スリングショットから出ているが廃盤。
ミシェル・ブローについてはアンドレ・ロワゼル著『ミシェル・ブローの映画』(ラルマタン、2005)、ピーター・ハーコート著『映画とその神話的世界』(晃洋書房)、デイヴィッド・クランドフィールド著『ピエール・ペローと詩的ドキュメンタリー』(インディアナ大学出版、2004)を参照。
ところで、『人間ピラミッド』や『ある夏の記録』や『十五歳の未亡人たち』の音響を担当したのはミシェル・ファノ(1929年生まれ)である。オリヴィエ・メシアンの弟子にあたるミシェル・ファノは、『去年マリエンバートで』(1961)の脚本で知られるアラン・ロブ=グリエ脚本・監督の『不滅の女』(特殊上映題。1963)、『ヨーロッパ横断特急』(特殊上映題。1966)、『嘘をつく男』(特殊上映題。1968)、『エデンその後』(特殊上映題。1970)、『快楽の漸進的横滑り』(特殊上映題。1974)などの作品の作曲・音響を担当している。
ファノが初めて映画の音響を手がけた作品は、ピエール・カスト監督の『青春時代』(未。1959)、続いて、ジャック・ドニオル・ヴァルクローズ監督の『唇(くち)によだれ』(1960)、ジャン=ピエール・モッキー監督の『あるカップル』(未。1960)、ジャック・バラチエ監督、ズビグニェフ・チブルスキ主演の『人形』(未。1961)、ジャン・オーレル監督、アンナ・カリーナ主演の『スタンダールの恋愛論』(1964)の音響を担当。またフランシス・レイが音楽を担当した、クロード・ルルーシュ監督の『男と女』(1966)、ジャン=クロード・エロワが音楽を担当した、ジャック・リヴェット監督の『修道女』(1966)の音響設計も手がけている。『修道女』の撮影のアラン・ルヴァンは『パリところどころ』にも参加している。エロワについては、小林康夫編『現代音楽のポリティックス』(水声社)を参照。
さらに、ファノが音響を手がけた作品に、ジョゼ・ヴァレラ監督、アドリアナ・ボグダン、ジャン=ピエール・カルフォン、パスカル・オビエらの出演した『風もひとりぼっち』(1966)、エリック・ロメール監督の『コレクションする女』(DVD題。1967)に出演している前衛美術家ダニエル・ポムルールの監督した短編実験映画『One More Time』(1968)、ピエール・グランブラ監督、ギスラン・クロケ撮影、デルフィーヌ・セイリグ、ジョン・モルダー・ブラウン主演の『花で気持ちを伝えなさい Dites-le avec des fleurs』(未。1974)がある。
ミシェル・ファノが音楽・音響設計を手がけた代表的な映画に、フランソワ・ベル&ジェラール・ヴィエンヌの動物記録映画『他者の領域』(未。1970)、『爪と牙』(1976)がある。「『他者の領域』は、そこに固有の表現を見出す今日の映画愛好世代と同様に、来るべき映画愛好世代に愛されるであろう宝物だ。観る者すべてが感銘を受け、そこに魔術の現前を見出すだろう」(オーソン・ウェルズ)。これらのDVDは仏レ・フィルム・デュ・パラドクスから出ている。
ちなみに1993年6月30日、草月ホールでミシェル・ファノと武満徹の映画における音楽に関する公開討議が行われたが、その際の司会は当時東大教養学部長の蓮実重彦だった。この時も討議に先立って『爪と牙』が上映された。
1993年6月16日のミシェル・ファノ・インタヴュー(仏語/PDF)
(「音響素材の概念を定義できますか?」の質問にたいし)「私は「音響持続体 continuum sonore」という言い方をします。自分で映画の仕事を始めた頃、非常に衝撃を受けたのは、溝口の映画『近松物語』です。諸要素すなわち発語、ノイズ、音楽が互いに渾然一体となり、音楽が聞こえているのか、発語が聞こえているのか分からなくなる。 私が日本語に無知なことがその疑念を助長することを私は望みますが、常にその組織構造、つまりもちろんその三要素から成るが、分割不能となった音響組織構造が見い出せるのです。つまり、音響のどの領域なのかがまったく分からないのです。それは私にとってまさに啓示でした。というのも、私は常にある映画作品のサウンドトラックに音楽的事象を導入することに違和感を感じていたからです。音楽的事象は背景音ないしは自然音より大きな複合体です。それはきわめて厳密な、音域、音高、音色、音価という概念を喚起させ、注意、聴取という作業を必要としますが、それは私には、アクション、イメージ、その映画作品にある他の要素すべてを追うという事象と両立しないように思うのです。そこには理想がありました。私が自作で試みたことです。音楽的要素が、まさにノイズが消える瞬間にノイズ構成組織の一種の中継となる。 車の走る音、ないしは夜のコオロギの鳴き声を聞く時、耳はやがて飽きる。もしも背景音がドラマツルギーの諸動機のために永続しなければならない時、その背景音が少しずつ変化し、ひとつの音楽、ノイズと音楽的音響のあいだの一種の非現実的な音響となる。それを私は実際に試みました。特にロブ=グリエの映画作品で。それはノイズ、非楽音に、実に興味深い身分を与えます。そのノイズは意味伝達物です。つまり多くの場合、聞こえるノイズは私達の知っているある対象を指示する。したがって私達は自分達の知る何らかの現実へといざなわれるのです」。
ミシェル・ファノ原案、ミロスラフ・セベスティク監督の『リッスン』(1992)のDVDがアップリンクから4月28日に発売された。「聴取」の美学について考察する記録映画。製作者はオタール・イオセリアーニ監督の『月曜日に乾杯!』(2002)に主演したジャック・ビドゥー。トマ・ド・ティエール監督の『心の羽根』(2003)などの製作者として知られる。録音の一人アリックス・コントは イオセリアーニの『月の寵児たち』(特殊上映題。1984)、『そして光ありき』(特殊上映題。1989)、『蝶採り』(1992)の録音も手がけ、パスカル・オビエ監督の『ガスコーニュの息子』(未。1995)は亡くなった彼女に捧げられている。彼女はピエール・クロソフスキ脚本、ラウル・ルイス監督の『盗まれた絵の仮説』(未。1979)には俳優として出演している。『リッスン』の出演者はジェルジ・クルターグ㈵世と二世、㈵世の妻マルタ・クルターグ、ミシェル・ファノ、カイヤ・サーリアホ、エサ=ペッカ・サロネン、ジョン・ケイジ、ヤニス・クセナキス他。『ラ・ジュテ』(1962)、『ミュリエル』(1963)、『はなればなれに』(1964)、『恋人のいる時間』、『幸福』(1965)、『気狂いピエロ』(1965)、『ポリー・マグーお前は誰だ』(1966)、『サンタクロースの眼は青い』(1966)、『アメリカの夜』(1973)、『インディア・ソング』(1975)などの映画録音技師アントワーヌ・ボンファンティ(1929年生まれ。2006年3月3日没)も僅かながら出演、『インディア・ソング』のデルフィーヌ・セイリグの声に魅せられていたと語る。
ちなみにジョン・ケイジ関連のDVDとそては、紀伊國屋書店から9月30日に発売の『ジョン・ケージ/ロバート・アシュリー』がある。これは1983年にピーター・グリーナウェイが演出したTV記録映画『四人のアメリカ人作曲家』の2編。残る2編『フィリップ・グラス/メレディス・モンク』も同時発売。2004年のジョン・ケイジ映画祭を機に、モード・レコーズからフランク・シェーファー、アンドルー・カルヴァー監督の『ジョン・ケイジ:ゼロから:ジョン・ケイジに関する4本の映画』のDVDも発売されている。
モードからはジョン・ケイジ『The Works for Piano 7』のDVDも出ている。ピアノおよびプリペアード・ピアノ演奏はマーガレット・レン・タン(1953年、シンガポール生まれ。コリン・ファース主演の1995年の英国TVシリーズ『高慢と偏見』のカール・デオヴィスの音楽も演奏している1956年10月13日生まれのフォルテピアノ奏者メルヴィン・タンの姉。トイ・ピアノ演奏家としても知られる)。
- コンロン・ナンカロウ『Three 2-Part Studies』(1942)
- ジョン・ケイジ『Suite for Toy Piano』(1948)
- ビートルズ『エリナー・リグビー』(1966)
- トビー・トワイニング『Satie Blues』(1989)
- トビー・トワイニング『Nightmare Rag』(1989)
- アルヴィン・ルシエ『Nothing Is Real (Strawberry Fields Forever)』(1990。高橋アキの委嘱によるビートルズの編曲)のピアノとミニチュア・サウンド・システム内臓ティーポット演奏
- スティーヴン・モンターグ『ミラベラ』(1995)
- アントニオ・ピーノ・バルガス『General Complex』(1995)
- ガイ・クルセヴェク『Sweet Chinoiserie』(1995)
- ジュリア・ウルフ『East Broadway』(1996)
- ジョン・ケネディ『Fanfare from The Winged Energy of Deelight』(1997)のトイ・シンバル演奏
- エロリン・ウォレン『Louis' Loops』(1999)
CD『アート・オブ・トイ・ピアノ The Art of the Toy Piano』(Polygram,1997)にも上記のいくつかの曲が収録されている。現在、タワー・レコード限定でTower Records Universal Vintage Collectionの1枚として発売中(完全限定。PROA-26)。
マーガレット・レン・タンについての記録映画に、中国で生まれ、マカオ、香港で育ったエヴァンス・チャン(陳耀成)監督の『Sorceress of the new piano』(未。2004)がある。エヴァンス・チャン監督の『セックスと愛の地図』(未。2001)のDVDはゲイ映画専門のウォーター・ベアラー・フィルムズから出ている。
またアップリンクから出ている『ジョン・ケージ』(1992)は、クラウス・リンデマン監督による記録映画。ミヒャエル・ギーレンに学び、演出家ペーター・コンヴィチュニーと組んだ2004-05年のハンブルク州立歌劇場のシェーンベルク『モーゼとアロン』(1930−32、51。未完。初演1954)公演などで知られるインゴ・メッツマッハー(1957年、ハノーファー生まれ)指揮によるアンサンブル・モデルンが、ヘルマン・クレッチマー(1958年生まれ)、デヴィッド・チュードアをピアニストに迎え、ケージの『プリペアド・ピアノと室内管弦楽のための協奏曲』(1951)と『ピアノと管弦楽のためのコンサート』(1957-58)を演奏する。なおメッツマッハーは2006−07年シーズンからネーデルランド・オペラに移籍。11月から始まるモーツァルトのダ・ポンテ3部作(『コジ・ファン・トゥッテ』、『ドン・ジョヴァンニ』、『フィガロの結婚』)公演などを指揮。
コンヴィチュニーについては許光俊『コンヴィチュニー、オペラを超えるオペラ』(青弓社、2006)を参照。メッツマッハーは著書『新しい音を恐れずに』(ローヴォルト、2006)を上梓した。
「第12回」の追加情報
スーザン・ソンタグが「米国最大の写真家」と絶賛したポール・ストランド(1890−1976)とチャールズ・シーラー監督の実験的記録映画『マンハッタ』(特殊上映のみ。1921)のためのマイケル・ナイマンのピアノ伴奏音楽(2005年2月24日。10分45秒)を以下で聴くことができる。『マンハッタ』はイメージ・エンターテインメントから出た『観られなかった映画』DVD−BOX収録の『Picturing a Metropolis』(単体発売あり)やキノから出た『前衛:1920−30年代実験映画』(2枚組)DVDで観ることができる。
またキノから出ているストランドに関するジョン・ウォーカー監督の記録映画『ストランド:暗幕の下で』(未。1989)のDVDも参照。特典として『マンハッタ』も収録。音楽はカナダの作曲家・サックス奏者ジャン・ドローム(1955年、モントリオール生まれ)。サントラCD(1999)はアンビアンス・マニェティックより発売。ジャン・ドロームはジャック・ルデュック監督の『熱情の時』の音楽も手がけている。またアイルランド、イングランド、スコットランド、ケイプ・ブルトン島で子供の夢想を探るジョン・ウォーカー監督の記録映画『妖精信仰 The Fairy Faith』(未。2000)のDVDは米国のウェルスプリングから発売。