放映録画鑑賞メモ 「彼奴を逃すな」

日本映画の玉でおなじみ、鈴木英夫監督の1作をチャンネルNECOの画期的な3ヵ月連続企画「鈴木英夫の世界」から。
冒頭のキャストクレジットで、木村功と津島恵子、志村喬に宮口精二って、おや「七人の侍」(54)のカップルと侍たちじゃないですか。

56年の同じ東宝制作だからこんな単なる偶然はたびたびあったのでしょうが、妙にはしゃいだ気分になってきます。(といっても「七人の侍」が好きなわけじゃないのです。ただフォード経由で黒澤を見直すという手もあるかな、と思っています。今まで何度も黒澤を好きになろうと努力してるのですが、いつも挫折しているのですが。)
お話は他にどうにかならないかなあ、とつっこみたくなる展開ですが、画面の面白さで見せてくれますね。鬱屈とした木村の顔と、さっぱりした清潔感の津島のコンビがまず、いいです。顔といえば、ひさびさに志村喬をしげしげ見てしまいましたが、やはり実に押し出しの強い強烈な個性ですね。某大プロデューサーに似てます。それからクライマックスに登場する宮口精二のもの言わぬ迫力。そういえば、こういう男たちの顔が黒澤映画の魅力、って友だちがいっていましたっけ。
あと鉄道の高架がバックにある商店街のロケーションとセットが印象的。
道路がむきだしの地面で、木製の建物や看板類が出っぱっているのが、まるで西部劇のよう、なんて言うとこの頃の映画を見ればいくらでもある光景だよ、とおこられそうですが、この映画のこの街角の感じってなかなか味がありますよね。ほとんどこの街角を舞台にくりひろげられる話なんですが、セットとロケーションの境目がわからないです。ひょっとしたら背景に汽車が走るカット以外は全てセットですかね。地ならしをするローラー車?がすすんでゆくカットや路地の遠景にいる男のシルエットなんかが印象的。移動をふくめたカメラアングルがサスペンスちっくでいいです。ちんどん屋ってクラリネットを吹いていたんだ、と気づいたのもこの街角での出来事。今気づいたのですが、あの白塗りのピエロ、宮口精二だったのですね。コワイ。そのピエロが妻を見ているのを見ている夫、という描写をきちんとカット割りしているので何度もでてくるピエロの顔がどんどんコワくなってきます。
とにかくその宮口が最後店にやってくるところから、目線と店外のカットバックでサスペンスがたかまるあたりは、なるほど、巧いです。この監督が評価されてきているのも、基本的にちゃんと見せてくれる、画で勝負してくれるから、ということでしょうか。殺人事件の目撃者になった男が犯人に脅迫されるというだけのこの映画のプロット、へたにつくれば、だらだらの退屈な映画になりかねないですもんね。どんな条件でも映画監督はあきらめてはいけないという好例かもすれません。でも役者もセットも今に比べれば断然豪華、というところがスタジオ時代のうらやましいとこですね。


キマ

すべてセットだそうです(ロケセットではありません、セットです。念のため)。すごいですね、撮影所システムの底力。
ちなみに半ば伝説として伝えられている黒澤明の「隠し砦の三悪人」を鈴木英夫が撮るはずだったという件ですが、なんの接点もないはずの黒澤と鈴木には、俳優の好みが似ているという共通点があります。単に東宝だからというのではなく、たとえば宮口精二なんかは本来文学座所属ですし(俳優座の役者が好きだった黒澤では例外的か)、山崎努なんかもそうです。もっとも鈴木英夫のキャスティングを見ていると、映画のスターシステムになじめず、実際は演劇人を起用したかったのだと思わされます。監督第2作の「蜘蛛の街」が宇野重吉と中北千枝子であったことを思い出してください。ただ黒澤のように喜劇人を積極的に起用しなかったのは、やはり鈴木英夫がコメディは苦手なジャンルという先入観があったせいだと思いますね。

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