DVD鑑賞メモ 10 「駅馬車」2枚組
ジョン・ウェイン=フォードBOXから「駅馬車」2枚組スペシャルエディションを。本編が期待していた画質ではないのは、現存するフィルム素材の問題だと思われます。
特典映像にもあるように、本作はフォードが主役に無名のジョン・ウェインをと主張し譲らなかったため、メジャー各社では断られ、独立プロでの製作を余儀なくされた、という事情がフィルム保存の点でも影響しているののでしょうか。あるいは本作の権利は現在「キャッスル・ヒル・プロダクション」なるところが管理している(パブリック・ドメインですが)ようですが、ここが本DVDマスターを手持ちの普通の素材で制作した、ということかもしれません。ひょっとして、UCLAや国会図書館ライブラリーやMOMAなんかにもっといい素材があるんではないでしょうか。
と、そんなことは初めのせいぜい5分くらい気になるだけで、のっけの「アパッチ!」から多彩な登場人物紹介でぐいぐい引きこまれます。話はそれますが、保安官役ジョージ・バンクロフトのスタンバーグ「暗黒街」は何故、正規のビデオDVDにならないのでしょうか。「紐育の波止場」はビデオになってますが、DVDは未だです。ディトリッヒ以前以後のスタンバーグを何とかしてほしいです。日本ではディトリッヒものですら、LDBOXはありましたが、DVDが未だというのは、どういうことでしょうか。
その他の名優たち、飲んだくれ医師トーマス・ミッチェルはこれと「果てしなき船路」だけ、ギャンブラー役ジョン・キャラダインもあと「怒りの葡萄」だけ、というフォードのキャスティング史もおもしろいです。これだけの味を出している役者たちですから、もっと長く参加してもよさそうなものですが、フォード組を生き残るのは大変なことだったのでしょうか。
特典ディスクにはウェイン=フォードについてのドキュメンタリー(米PBS制作「アメリカン・マスターズ」の一編)、「駅馬車」についてのDVDオリジナルドキュメンタリーが収録されています。
ここにインサートされるフォードのプライベート16mmカラー映像はヨット上のウェインたちの生き生きとした表情を映しだして、当時のフォード組ここにありの王者の風格を感じさせてくれます。
第二次対戦中従軍カメラマンとしてフォード自ら撮影したミッドウェイ海戦の空母甲板上の映像にもおどろきました。というか、ハリウッドを離れづっと従軍していたというのは初めて知りました。一方ウェインは志願兵として戦争に行った俳優たちの穴うめで、多くのチャンスをものにしたんですね。そのことが戦後の二人の関係に微妙なものを生み出したようです。この戦争がフォードに与えた影響、というか、映画にあたえた影響というのは、たいへんなものがあったのでしょう。たとえば30年代の「男の敵」、「虎鮫島脱走」、「メアリー・オブ・スコットランド」、「モホークの太鼓」、「駅馬車」、「タバコ・ロード」、には人間性の全肯定というか、無垢な明るさとでもいうような、現代の映画ではもはや到達しえない、何か大きなおおらかさ、優しさがあるのではないでしょうか。
フォードのすごいところは1952年に「静かなる男」を見事に成立させてしまうところですが、これも企画/構想は30年代のものです。
戦前、30年代のハリウッド、ここに映画の全ての達成があるのでしょうか。
年に何度も「駅馬車」がかかっているような名画座が欲しいですね。ちなみに小生が初めて見たのは、今はなき八重洲スター座、「シェーン」と二本立てだったはずです。「俺たちに明日はない」「卒業」の二本立てなんかとともに、定番中の定番でしたね。
※動画をご覧になるには最新のMacromedia Flash Playerがインストールされている必要があります。再生されない方はダウンロードページより、お使いの環境に必要なものをインストールして下さい。

Faux
「DVD&放映録画 鑑賞メモ1 「虎鮫島脱獄」」のコメントに書きましたが、ジョン・キャラディンは『虎鮫島脱獄』(36)のサディスティックな看守役でフォード作品デビュー、以下、『メアリー・オブ・スコットランド』(36)、『ハリケーン』(37)、『四人の復讐』(38)、『サブマリン爆撃隊』(38)、『駅馬車』(39)、『モホークの太鼓』(39)、『怒りの葡萄』(40)、『最後の歓呼』(58)、『コウルター・クレイヴン物語』(TV。60)、『リバティ・バランスを射った男』(62)、『シャイアン』(64)に出演。息子のデイヴィッドが生れたのは1936年。キースが生れたのは1949年。ロバートが生れたのは1954年。
『コウルター・クレイヴン物語 The Colter Craven Story』は日本ではNTVで放映されたウォード・ボンド主演のTVシリーズ『幌馬車隊』の一編。南北戦争の後遺症で酒におぼれるようになったクレイヴン医師(カールトン・ヤング)が、幌馬車隊長アダムス少佐(ボンド)からグラント将軍が酒の失敗から立ち直り、大統領になった逸話を聞かされ、立ち直り、帝王切開の手術に成功する。ジョン・ウェインも出演。Amazonで中古VHS売ってます。
http://www.amazon.com/Wagon-Train-Collectors-Elizabeth-McQueeny/dp/B0002ZB72I
ブロードウェイから5月3日に出た『WESTERN HEROES Vol.3 幌馬車隊』は3話収録ですが、上記挿話は入っていません。
50年代はフォード作品から遠ざかっていますが、『十戒』(56)ではモーゼの兄アロン役を演じ、ニコラス・レイの『大砂塵』(54)でウォード・ボンドと共演し、『無法の王者ジェシー・ジェイムズ』(57)ではジェフリー・ハンターと共演しています。ラングの『地獄への逆襲』(40)ではヘンリー・フォンダ扮すフランクの弟ジェシーを殺したボブ・フォード役。
ちなみに『駅馬車』と同じ1939年のアラン・ドワン監督『Frontier Marshall』は、『荒野の決闘』(46)の元ネタ。ランドルフ・スコットがワイアット・アープを演じています。これ自体ジョージ・オブライエンがアープ(役名はマイケル・ワイアット)を演じた『国境守備隊』(34)のリメイクですが。
トマス・ミッチェルは、『ハリケーン』でフォード作品デビュー。『駅馬車』の飲んだくれの医師ブーン役でオスカー助演男優賞受賞。その後、『果てなき船路』(40)に出演。ミッチェルは1939年作品の『コンドル』、『スミス都へ行く』、『風と共に去りぬ』、『ノートルダムのせむし男』に出ているのがスゴイ。
2007年05月15日 21:28
Faux
トマス・ミッチェルがフランス人医師に扮した『ハリケーン』(37)も観たのですが、フランスのUniversalから2006年に出た『肉体と幻想』(43。ジュリアン・デュヴィヴィエ)のDVDを観ました。英語音声、フランス語字幕付きです。これがなかなかの拾い物。シャルル・ボワイエとデュヴィヴィエが製作したアメリカ映画ですが、三話オムニバス形式で、占い師の予言を気にするロバート・ベンチリーの気を晴らすために、同じ社交クラブの友人が読んで聞かせる三つの教訓的怪奇譚という趣向。第1話のニューオリンズの謝肉祭を舞台にした、ベティ・フィールド(DVDジャケットではPattyと誤植。『南部の人』『ピクニック』の女優です)、ロバート・カミングス篇も悪くないのですが、オスカー・ワイルド原作の第2話は、霧の都ロンドンを舞台に、エドワード・G・ロビンソン扮する弁護士が、トマス・ミッチェル扮する驚異的な占い師に、あなたは誰かを殺すと予言され、強迫観念にとりつかれる話。アンナ・リー、C・オブリー・スミスも共演。この話の最後が第3話の導入部となります。第3話は、シャルル・ボワイエ扮するサーカスの綱渡り曲芸師が予知夢を見る話。予知夢に出てきた謎の美女役がバーバラ・スタンウィック。二人のやりとりを観ているだけで満足できる良質のメロドラマです。
スタンリー・コルテス(『偉大なるアンバーソン家の人々』『扉の影の秘密』)とポール・アイヴァノ(『The Shanghai Gesture』『Black Angel』)の撮影は絶品。
ユダヤ系ポーランド人アレクサンドル・タンスマン(1897-1986)のシェーンベルク風音楽も衝撃的。1932-33年の世界ツアーでのタンスマンのピアノ演奏は昭和天皇も聴いたとのこと。作曲では、セゴビアのために書いたギター曲が有名。
デュヴィヴィエのアメリカ映画では、やはり6話オムニバス形式の『運命の饗宴』(42)も観たいです。ジュネス企画からVHSが出ています。
2007年06月13日 07:48